初出勤日

昔からの夢だったコックへの道

初出勤の日、私はいつものスーツを手に取り、
もうこれを着ることはないのだと、ちょっと涙ぐみました。

営業で使い、内勤で使い、就職活動で使い、とうとう2着しか着なかったスーツです。
もっと使ってあげたかったのですが、仕方ないですね。

思えば、若い人は皆、就職活動をするとは限りません。
しかし、私の場合、就職活動そのものは上手くいったのですが、
少し欲が出てしまい、昔からの夢だったコックへの道を歩みました。
勿論会社の上司からは反対されました。

「あと10年若ければ止めなかった」といわれ、現実の厳しさを実感しました。

けれど、私は自分の選択が間違っていたとは思いません。
料理人になる夢は、誰にもいえない私だけの夢です。
誰にも私をとめることはできないでしょう。
それだけに、いついかなる時も努力し、成功したいと考えています。

初めての機会には、大抵のことが真新しく見えるものです。
機会は一度しかないとお考えください。そのたった一度の機会に、
即座に対応できるのはほとんどいません。
しかし、その機会を逸してしまえば、二度と同じ体験はできないものです。
私は、経験は一度で十分だと思います。
むしろ、その一度に自分のすべてをかけるくらいでちょうどいい気がします。

私の脳に深く刻まれている思い出

私にとっての機会は、中学生のときに女の子に告白されたときと、
高校生のときの体育祭のリレーで1番になったときです。
これらの思い出は、今でも私の脳裏に深く刻まれています。
決して平坦な人生ではありませんでしたが、それでもしたいことができて良かったと思います。

私は指定された時刻より30分早く職場に来て、先輩方に挨拶をしました。
大体半分くらいの人が挨拶を返してくれました。
都会っ子だからって、舐められたら大変です。年上の人には、得に念を入れて挨拶をしておきました。

料理長から紹介を受け、丁寧に挨拶。拍手をもらい、早速雑用です。コックスーツなんて着られるはずもなく、
店の外でビラ配りとごみ捨て、それから客引きを担当しました。
トーク力には自信がありましたが、わざわざレストランでランチを取りたいという方を探し出すのは本当に大変でした。

思えば、私は少し強引なところがあったのかもしれません。
自分が言いたい事をいい、相手をねじ伏せるようなことばかりしてきたせいか、
お客様に嫌われてしまう結果になりました。
先輩に呼び出され、二度と強引な客引きはしないと誓約させられたのはいい思い出です。
その時私は、キャバクラの客引きボーイのほうが良かったのではないかと、一瞬考えてしまいました。

ふらふらになりながらも初出勤を終え、明日から毎日来るようにとのお達しを受けました。
とりあえず人間としての適正試験には合格したみたいです。
ポイントは熱意ではなく「あごで使えるか」だそうですけど、そこは聞かなかったことにしました。

人間元気だけでは乗り切れないことも沢山あります。
私は、今でもあの日のことを思い出して、自分が本当に青二才だったと自覚しました。
今もまだ修行中の身ですが、
念願だったコックへの道を踏み出せたことは、本当に喜ばしいことだと思います。

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